近畿・瀬戸内産地巡り 03
3週間弱に及ぶ、産地巡礼の旅路記録。前回に続き、今回は向島へ足を進める。
広島県 向島 -立花テキスタイル研究所 インターンシップ特集- 2017.2.6-10
向島のフェリー乗り場。乗船料は100円、朝は通勤通学で賑わう。
今日は寒晴れ。ふっくら握られたおむすびと、お味噌汁の朝食に心も温まり、身支度を整えて出発。
尾道から向島に渡るフェリーは二航路あって、どちらも時刻表はアバウト。それもそのはず、5分と経たないうちに着いて、またすぐ戻ってしまうので拍子抜けする。到着してからインターンシップ先の新里さんに暖かく迎えられ、工房と綿花畑を見学しつつ向島観光をすることになった。
車で高見山展望台まで登り、まずは向島全体を一望。こじんまりとした集落と、眼下の緑、その先に広がる瀬戸内海の碧に圧巻だ。その後、山腹のUSHIO CHOCOLATLでお土産を購入し、立花テキスタイル研究所と併設する帆布工場を見学。
工場内の糸縒り機。
分業化した産地は、行程を担う工場が一つ潰れてしまうと、全体が芋づる式に閉業に追い込まれることが多い。ここは、たまたま譲り受けていた機械が命綱となり、唯一生き残ることができたという。
一帯を覆う綿花埃。
外より冷え込む作業場で。
紡績工場に入ってすぐは、その老朽化と雪のように積もった埃の層に目がいくが、人の気配がない工場の、大きな織り機の奥からひとり、またひとりとご年配の職人さんが現れた直後、これらの尊さ、そして言葉にならない美しさを感じてハッとする。
機械にかかる糸の撚りを、パイプ椅子にジッと座って調整するおじいさん。
「こんな汚い職場だけど見てってね、あんたたちも、興味あればいつか来んさいな」と笑うおばあさん。
こういったあらゆる人々の勤労があって、都市での豪遊や消費が成り立つんだと思うと頭が上がらない。命だった綿花から、私たちが使うものができてゆく過程の音や光、それに携わる人たちの謙虚な姿勢が、目に焼き付いて離れなかった。
(インターンシップ2日目)
今日は朝から夕方まで、ひたすら糸巻き。
藍とヤマモモで染められた深緑の綛が絡まって仕方がなくって、どうしようもない!というほどだったが、巻き終わった玉を見て、自然の絶妙な色ムラが美しく、この工程をやり抜く価値を感じる。
私たちが作業をしている合間も、スタッフの方々は雑誌の取材や取引先との打ち合わせ、合間に染め作業などと動き回っていた。でも、忙しい中にどこかゆとりがあって、穏やかな空気が終始続いていたのが印象的だった。
研究所の藍甕と染め場。
(インターンシップ3日目)
出社後トラックで綿花畑へ向かい、残った綿を摘み取り、収穫を終えた幹を草木染め用に引き抜く作業をした。屋外だが体を動かすため、昨日よりは暖かい。自然相手で変化に富む畑仕事は、飽きがこなくて楽しいと再確認。将来小さな畑が欲しいな...二毛作で入れ替えもして...と呑気な妄想をしていたら、あっという間に昼になった。
収穫した綿花。
午後は初日に綛にした糸を柿渋染めに。染め上がりを物干し竿にかける時の、美しさと快感はたまらない。ファブリックは洗濯時にたゆたう姿と、干されて風を含む瞬間が一番美しい。
柿渋液に浸けた綛。日光に当てることで、色に深みが増す。
(インターンシップ4日目)
昨日収穫した綿花の根っこの、泥を落とすところから始業した4日目。それらを沸かした井戸水に入れて1時間煮出し、濾して染液を抽出、その粗熱をとったところで綛を沈め20分浸染。ゆっくり冷ますと糸が綺麗な土色を吸い込んでいた。
チップ状に細かくカットした綿花の根。
煮物に味が染み込むように、ほんのり赤みのある土色が、糸へ染み込んでゆく。
昼前に、ウォールナットのチップを譲り受けている木工家具屋さんを見学後、スタッフの皆さんとお好み焼き屋さんへ。染めなどを担当されている斎藤さんに、カンボジアのIKTTや栃木県にある紺屋の紺邑さんについてのお話を聞き、ぜひ訪れたいと胸高鳴った。学生のうちにどちらも、絶対に、行きたい。
(インターンシップ最終日)
どっと疲れが出て、その日中に記録を書き留めたいのだが、思考が停止しそうだ。今日は朝から何をしたっけ...。
まずは柿渋染めした綛たちを、竿ごと朝日に当てに。ありがたいことに作業はだんだんと任せてもらえるようになって、柿渋の媒染をし、合間に藍染をし、最後はその灰汁抜きをし...いくつにも重なる作業時間をタイマーで測りながら、同時進行させていた。
酸化させないように、そっと藍甕に手を入れて染める。
灰汁を浸け、藍に浸し、乾かす。4回繰り返すうち濃紺に。
叢雲絞り染めの出来上がり。
午後、引き続き作業をして、気がつくと就業時刻に。その後は立花テキスタイルのペンケースを購入したり、工房内を撮影したりしながら、後ろ髪を引かれる思いで研究所を後にした。
お世話になったインターンシップ先は素敵でしなやかな人たちばかりで、ただただ尊敬しきりの毎日だった。極寒の中での作業など、冷えが堪える私には限界だなと思う部分もあって、自身の将来の展望を見定め、焦点を絞る最高の機会を得ることができた。